AIで英検準1ライティング(要約問題)を攻略してみよう!
2024年から導入された英検の新しいライティング問題ですが、皆さん順調に解けていますでしょうか。実感としては3級と準2級に導入された【Email問題】の難易度は難しくなく、むしろ得点源とすることが可能。2級と準1級に導入された【要約問題】は完全に難易度アップの布石のように見えています。
邪推ですが、英検協会からすれば、来年導入する英検準2級プラスのために、できるだけ2級の合格者を減らし、準2級プラスの受験者を増やしたいですし、そもそも2級と準1級はほぼ大学入試における英語科目の代替となっているため、できるだけ合格者を絞りたいところです。英検は使用できる単語が各級ごとに決まっているため、単語のレベルだけを変更して難易度調整は出来ません。そこで考えられたのが新形式の問題(要約問題)を導入し、その採点基準を厳しくすることで、結果的に難易度アップを図ろうということです。
通常ライティング(自由英作)の場合は『減点法』を使います。ある程度の正しい流れに沿い、文法などに間違いがなければ、基本的に減点ができないという考え方ですね。意見の精度や確度、裏付けする証拠の正否、道徳的善悪、意見の独創性などは求められないため、意見論述ではまず間違えずに書くことが大事でした。一方で要約の場合は、基本的な事項として、内容、構成の観点では要約すべき内容において、書くべき項目ぬけがないことが大事になりますが、一方で語彙、文法の観点については、「できるだけ自分の言葉で」という記載をつけることでいくらでも難しくすることが可能です。この表現は本文中に使われた表現だから減点、言いかえのレベルが高くないから減点等々、いくらでも点数の換えようができます。たとえ文法的に間違いがなくてもです。このことから、要約問題は元の問題文から、いかに難しく書き換えをするか、その難易度や精度によって点数を増やすという『加点法』となっているように思えます。
今回、旺文社さんから面白いサイトの案内が来ました。「英検カコモン」というサイトです。もともと英検協会は旺文社さんの子会社でずぶずぶの関係ですので、こういう過去問サイトができるのは自然です。さらにすごいことにAIでライティング採点もしてくれるそうです。2019年ごろに、英検のライティングの採点はAIを用いるという情報が流れました。その後どうなったのか、OCRの精度がどの程度上がり、どのくらい実践で使われているかはわからないのですが、S-CBTでタイピングを選んだ人はAIによって採点されている可能性が高いと思われます。さらに英検協会さんと関係の深い旺文社さんが作成したAI採点サイトとのことで、実際の英検の採点の基準を踏襲している可能性もあり得ます。今回はこのサイトを使って、どのように英検のライティングが採点されているか、検証したいと思います!
さて、早速こちらを使って問題を解いてみました。準1の問題はこちらです。
2024年第1回過去問から
Schools in some countries have often supplied free lunch to a limited number of their students. These meals tend to include a variety of foods, including salads and desserts. Nowadays, there are programs that provide such lunches to all students. Many in favor of the programs want them to continue.
Supporters point to the benefits. Studies show a relationship between nutrition and how well students do in school. Therefore, providing a healthy meal for all students is important. Doing this can improve their concentration levels, leading to better test scores. Additionally, free school meal programs have another advantage. Many parents today are often extremely busy, giving them little time to prepare lunches for their children. The programs, therefore, are a huge help. This is because parents of all students will be able to spend more time on work and other child-raising issues.
Critics, on the other hand, say that providing school meals for everyone is problematic. Schools need to prepare enough meals every day for all students. However, some students do not completely eat the food that has been prepared. Consequently, a large amount is left over. The schools have no option but to throw it away.
ここで私の答えを出してもいいのですが、AIにはAIということで、チャットGPTにお願いして答えを創ってもらいました。以下の文章を出力してきました。
一部の国では無料給食が一部の生徒に提供されてきましたが、現在は全生徒に広がるプログラムもあります。支持者は栄養が学業成績を向上させる点や、忙しい親を助けるメリットを強調します。一方で批判者は、食べ残しによる大量廃棄が問題と指摘します。このように、無料給食には利点と課題の両面が存在しています。
Some countries have offered free lunches to limited students, but programs now provide meals to all students. Supporters emphasize benefits such as improved academic performance due to better nutrition and support for busy parents. Critics, however, highlight challenges like food waste from uneaten meals. Thus, while free school meal programs offer significant advantages, they also face practical issues that require attention.
英語の方は元々60-70単語の指定をしたにもかかわらず、51単語程度しかなかったため、10単語追加してもらい、上記の英文になりました。一番最後のまとめみたいなところは、ChatGPTの悪い癖で、要約した内容をさらに要約してきます。英語としてはきれいですので、間違いはないかと。これは満点と思われます…。結果は…。
内容4点、構成4点、語彙3点、文法4点 合計 15点/16点
なかなか素晴らしい点数です。これまでAIEが知る中でも、英検の準1要約問題で、14点以上取った人はいないので、ベストスコアです。一方でAIを駆使してでも満点を取れないというのはなかなか大変です。
総評コメント
【内容】 主題である「学生向け無料ランチ」について、支持者と批判者の意見をバランスよく要約しています。内容の要約が的確で、問題文の情報をしっかりと反映しています。
【構成】 各段落の要旨を1文で述べており、論理的な流れがしっかりしています。接続表現も適切に使われており、構成が明確です。
【語彙】 語彙の選択は概ね良好ですが、問題文と同じフレーズが使われている箇所があります。例えば、「free lunches」や「supporters emphasize」などの表現を自分の言葉で言い換えるとさらに良くなります。例えば、「complimentary meals」や「advocates stress」などの表現を使うと良いでしょう。
【文法】 文法的に問題はなく、文構造も自然です。文法ミスがないため、非常に良いです。
全体として、要約の内容と構成が非常に良く、語彙の面で少し改善の余地がありますが、全体的に高いレベルの解答です。さらなるスコアアップのためには、語彙の多様性を意識して、問題文の表現を自分の言葉で言い換える練習をすると良いでしょう。
さて、この総評を見てどう思われるでしょうか。はっきり言って準1級の要約問題の語彙の観点では、満点を出す気はないようです。「free lunch」 を 「complementary lunch」 に言いかえる人は存在しないと思います。free lunchで十分意味が通じますし、これこそ書き換えのための語彙学習を要求しているとしか思えません。そもそもemphasize はすでに言いかえをしています。supportersを使ったのが良くないなら、毎回この手の単語が出てくるので、supporters ⇒ advocates, followers などに、critics ⇒ opponents objectors challengersにしましょうと指導をする形になり、余計に英検の嫌いなテンプレート回答が横行します。とてもではないですが、実用英語技能からは程遠い、歩くシソーラス(類義語辞典)みたいな人を育てましょうという方針にしか思えません。
もちろん、この旺文社の英検カコモンのAIの採点方針=英検本試験の採点方針かどうかはわからないため、この分析が無意味になる可能性もあるのですが、ライティングの採点プログラムを複数作るのはコストも手間もかかりますし、当然、本番と全く違う採点方針をもとにAI採点のサイトを作成して勉強を推奨させるのも、教育機関ならあり得ないと思われます。という点から見てもある程度この採点方針は本番の採点方式に近しいと考えても支障はないはずです。
さて、こちらのAI回答の最後に『要点のまとめ方』の解説欄があります。貼り付けておきますので、参考にしてみてください。重要と思われる点には、ハイライトを入れておきます。特に前置きは不要という解説は重要です。
要点のまとめ方
●重要ではない情報や細かい情報は省く。
●具体的な情報を抽象化・一般化する。
●英文の表現をできるだけ自分の言葉に言い換える。
解答例を基に,要点のまとめ方を段落ごとに詳しく見ていこう。
第1段落:第1~2文の従来の話はあまり重要ではないので省く。including や such as に続く具体例も要点の対象外となる。Nowadays, … の「今」についてが重要で,「生徒全員への無料の給食の提供の継続を望む」という内容を盛り込もう。
第2段落:第1文,第5文の「(別の)利点がある」などの前置き表現は要約文に含めず,要点のみを書くことがポイント。つまり,1つ目の利点(成績が向上する)が書かれた第2 ~ 4文を1文にまとめよう。
続いて,2つ目の利点(親が助かる)が書かれた第6 ~ 8文を1文にまとめよう。〈人+can [be able to] do〉 ⇔ 〈無生物+allow+人+to do〉の置き換えはどんなトピックでも使える。
第3段落:ここでも第1文の「問題がある」という前置き表現は省略し,第2文以降を1文にまとめよう。特に結論を述べた最後の2文が重要。
以下の言い換え(英文→解答例)を参考にしよう。
第1段落:continue → remain
第2段落:improve their concentration levels, leading to better test scores → boost their academic performance / little time → limited time / spend more time on work and other child-raising issues → focus on other responsibilities (下線部は具体→抽象化)
第3段落:a large amount → a significant quantity / is left over → unfinished meals / throw it away → discarded
いかがでしたでしょうか。現在AIを使ってライティングの採点をするサイトも多く出ていますが、採点方式が間違っていた場合、間違った方向に向けてライティングを伸ばそうとしてしまいます。今回のサイトはかなりよくできているとは思いますので、ぜひ活用してみてください。
今回『英検カコモン』のAI採点でわかった準1要約問題のポイントは
本文と同じ語彙を使わず、すべて書き換える。そのため、よく使われる単語の言いかえリストを作成するとよい。
前置きの表現は削る。点数にならない。
ですね。ここはしっかりと抑えましょう。
なお、英検協会が作成した模範解答を読み込ませてみましたが、それでも上記と同じ15点でした。語彙を満点にすることは、英検協会ですら、難しいようです…。