【英語情報】AI(人工知能)と英検そして新英検
今回は、英検についてです。昨年のちょっと気になったニュースと合わせて、新たに英検協会から発表がありましたので、その考察もかねてです。2019年度の英検における3大トピックは
①英検にAIによる採点の導入
②英検の価格改定
③英検の種類の増加
です。
①英検にAIによる採点の導入
今回のメイントピックのAIですが、昨年11月に、英検教会から「2019年度からの英検の採点にAIを活用する」という発表があったのはご存知でしょうか。なんでも、スピーキング、ライティングの採点にAIを活用し、採点効率を高めることと、試験官による、個人差をなくすためとのことでした。そのために、中国のiFlytek社の自動採点技術を使って実証研究を行った結果、人の手を介した採点と遜色ない成果が出たため、採用するにいたったそうです。確かに、2020年からの大学入試改革に備え、受験者増が見込まれる中で、採点時間の短縮と公平性の担保は大きな課題ですので納得です。
私自身、ライティングが入ってからの英検は、公平性にかける点は大いに感じていました。文法ミスが数箇所あっても、満点をくれる神様みたいな採点者に当たることもあれば、会心の作と本人が喜んで書き出し、私自身が見てもこれは、高得点間違いなしと思った英作文の点数が、伸びなかったり、これは採点者の裁量によるところが非常に大きく、困っていたところです。さらに、ライティングは4~16点の範囲で採点されるため、ほかのセクションに比べて、1点の比重が大きく、合否に大きな影響がありました。ただし、AIEではライティングを重視していましたので、合格率がアップしたこともありました。しかし、一生懸命がんばった子供が納得のいかない結果になってしまうことも少なくなかったので、どうにかなればと思っていました。
このAIによる採点、まずは、ライティングから導入され、順次スピーキングに入るようです。AIで自分のしゃべった英語を聞き取ってくれるスマートフォンアプリもありますが、なかなか思ったとおりにならないので、スピーキングをどの程度聞き取って理解してもらえるかは、とても気になるところです。
さて、問題のライティングです。公平性については機械を信じるしかないのですが、果たして、人が書いた文章の意味について、機械が理解できるのかどうか、ここが不安の種です。
AIの進化の歴史を紐解くと、最初は迷路からの脱出に始まり、徐々にチェス、将棋、と複雑なゲームに対して人間よりも優れた人工知能が開発され、2017年には、打つ手が無数にあり、開発が難航していた囲碁においても、名人を倒すという快挙がなされました。その突破口となったのが、ディープラーニングです。専門家ではないので、詳細は分かりませんが、それまで、人間が組み込んでいた特徴を、コンピューター自身が学習データから特徴を定義づけることができるそうです。ただし、そのために読み込ませるデータは膨大です。囲碁の場合、16万局の対戦を読み込ませ、その中の2900万の局面を学ばせて、そこから最善手を打つプログラムだったそうです。対戦した棋士も16万局分の経験を持つ相手と戦うのですから、当然負けてしまいますね。
そんなこんなで、AIが採点する場合、これまで受験者が書いたすべてのデータが読み込まれ、活用されるのでしょう。しかし、ライティングが導入されてからまだ数年、それほど、たくさんのデータがたまっているとは思えません。おそらく文法の間違いはすぐに発見できると思いますが、果たして、人間が書いた文章をAIがどれほど、その意味を考え理解することができるのでしょうか。意味が分かれば合っている内容も、間違いとみなされることがあるのであれば、AIを入れる意味はありません。そのうち、英検で高得点を取るために、「AIが分かりやすいライティングを行いましょう」、なんていう英語学習方法が出てくるかもしれません。それでは本末転倒です。ただし、採点されるという土俵に立つためには、必ずコンピューターからも読みやすい、丁寧な字で文字を書くことは、必須です。今からきれいな字を書くことを心がけることが必要です。
もし、AIに興味をもった方は世界のグーグルが導入しているAIでの翻訳サービスを試してください。楽しい誤訳がたくさん見つかります。例えば「ありがたき幸せ」と打ち込んでみてください。”Arigataki happiness“と訳してくれます。言葉の意味が分かっていないというのは、恐ろしいことですね。本当なら、I appreciate you very much! ですむのですが。
②英検の価格改定
さて、採点の仕方に合わせてではありませんが、2019年から、英検の価格が変わります。以下の表をご覧ください。
本会場、3級と4級の価格上昇が1000円以上と、かなりの値上げです。結果、本会場の3級と、準会場の準2級の価格が一緒になってしまいました。時間も、ライティングの文字数も変わる2つの級が同じ価格ということは、受験級ごとの価格というのは、あってないようなものですね。さらに価格の変更具合を見ると、面白いことがわかります。なんと、本会場の費用が、準会場より1000円高くなるように設定されているのです。これは、4技能試験に対して、多くの学生が不公平なく、受験をできるようにしたいという、文科省の意図にはちょっとそぐわないのかなと思います。というのもAIEも準会場の登録をしていますが、準会場があるかないかは、地域による差が非常に大きいためです。地方で、なかなか準会場が見つからない場合は、本会場受験をするしかなく、そこまで移動する交通費に加え、受験料も高いとなると、より地域の差が出てしまう気がします。
この価格変更、建前としては、人数増加に合わせてということですが、どうも価格の変更の具合を見るに、本会場の受験者数を減らして、準会場へ人を流したいという意図が見え隠れします。準会場として、たくさんの生徒さんに受験してもらうこと自体はうれしいことですが、準会場にも席の数には上限がありますので、結局は運営面や人件費のところなどで悲鳴を上げてしまうという感じになることも予想されます。さらに英検協会は準会場に対して非常に厳密な試験実施を求めてきていますので、それを思うと今後準会場を引き受ける団体数が少なくなり、結果的に受験生が一番損する流れになってしまいます。
③英検の種類の増加
これは、昨年の12月に発表された内容です。詳しくは英検のHP(PDFが開きます)にすべて書いてありますので、そちらにお任せするとして。大切なことを要点をかいつまんで説明します。
①英検CBTに準1級が追加されました(11月から)。
②英検2020 S-CBTを実施します。しかし、2020年度以降のやり方とは違った、2019年独自の方式で実施します。
③英検2020 S-Interviewは2019年度は実施しません。
という3つがメインです。これから一つ一つ見ていきます。
①英検CBTに準1級が追加されました。
これは読んだままですが、これまで3級から2級となっていた英検CBTにおいて、準1級が追加されることになります。逆にこれまでなかったのが不思議なくらいです。現状、大体の大学受験生の英語のレベルは、CEFR(セファール)の表でA2~B1となります。逆に言うと、日本の大学受験生の英語力は、たった2つのレベルに収まるほど、世界的なスケールで見ると英語力に差が少ないということになります。このA2~B1というのは、英検準2級の上位合格者~2級合格者がA2レベル、英検2級の上位合格者でB1レベルまでとなっています。B2以上の英語力を図るためには、準1級の合格が必要でしたが、これまでの英検CBTではそれができなかったのです。しかし2019年度からは準1級の実施がされますので、しっかりとレベルを図ることができます。
ただし、11月からとなっていますので、早期に準1級を受けたい方は、従来型の英検を受けるしかありません。そう考えるとCBTでの準1級受験は2019年度に高3になる方ではなく、現在の翌年2020年の高3生向けの下準備と考えたほうがよさそうです。
②英検2020 S-CBTを実施します。しかし、2020年度以降のやり方とは違った、2019年独自の方式で実施します。
③英検2020 S-Interviewは2019年度は実施しません。
この二つは密接にかかわりますので、一緒に解説します。
英検2020 S-CBTと英検2020 S-Interviewは初めて聞かれる方もおられるかもしれません。これらは2016年に、大学入学共通テストの枠組みにおいて活用される英語の民間資格・検定試験(以下「英語民間試験」) に参加するために、新たに作られた英検です。従来型の英検が先の英語民間試験に採用されなかった理由として、4技能を無条件で全て測ることができない点(スピーキングが1次試験合格者のみのため)がありましたが、この 英検2020 S-CBTと英検2020 S-Interviewは スピーキングも全員が受けられるようになっています。そのうえで、実施場所、受験日数、試験形式の違いで2種類のテストをする予定でした。
しかし、2019年度に関しては、英検2020 S-Interviewは 実施されません。この理由については、①受験に2回公開会場に来る必要があるため、交通費の負担が大きい。②英検CBT、S-CBT、S-Interview の3種類のテストを受けれるようにすると経済的余裕のある学生が複数回受けられる形になるため、不公平が生じる。とのことでした。②に関しては、2020年以降も同じ問題が発生するため、受験回数に関しては制限を設けるなどの処置をとるなどの方針も出てきているようです。
さらに 英検2020 S-CBTですが、こちらはもともと以下の形で実施予定でした。
①対象受験者 ⇒ 高3生限定
②リーディング&リスニング ⇒ PBT(紙を使ったマークシート)
③実施回数 ⇒ 4月~12月、年に2回実施
それが2019年度に関しては、
①対象受験者 ⇒ 高3生限定 ⇒ 高2生限定
②リーディング&リスニング ⇒ PBT ⇒ CBT(パソコンで受験)
③実施回数 ⇒ 4月~12月、年に2回実施 ⇒ 11月~3月(毎月)実施
となりました。
①については、2019年度の高2生への例外措置を設けるために必要とのことです。この例外措置は、経済的に困難な事情のある受験生の救済と、遠隔地(離島含む)の受験生の救済をする必要がある、ということで、翌年に各種試験が受けられなかった時のための処置として、高2で受験した成績がそのまま使える枠組みをつくるためです。
②のPBTをCBTへの変更に関しては、「試験当日の実施工程だけに限らず、答案等の試験資材の回収や、正確かつ迅速に成績処理を行うための後工程も含めた実施工程全体を総合的に判断して」、CBTがベストとの判断をしたとのことです。実際はCBTの方がパソコンの不具合など当日起きうるトラブルによるリスクや受験生に一人1台パソコンを用意する準備コストを考えるとそれなりに大変かと思いますが、それでもCBTの方がいいという判断が出ているようです。。
③についても、2019年度の実施目的は翌年高3生になる学生への例外措置がメインですので、実施時期、回数が変わることは仕方がないことです。ただ、短期間に5回連続で受けてもなかなか結果に結びつかないので、計画的に学習することが大切です。
ここまで、変更点について述べてきました。2019年に高2生になられる方は、ご自身の受験の際に大きくかかわってきます。常に最新情報をチェックするようにしてください。